【よくわかる】紙の歴史(後半)〜木材パルプの発明と和紙の進化、現代の製紙まで〜

洋紙・和紙・現代の製紙産業へ。紙はどのように進化してきたのか

前編では、紙が誕生する以前の記録媒体から、中国における紙の実用化、そしてシルクロードを経たヨーロッパへの伝播までをご紹介しました。後編となる今回は、ヨーロッパに伝わった紙が印刷技術の発展とともにどのように普及し、工業的に大量生産されるようになったのかを見ていきます。

あわせて、日本独自の紙文化である「和紙」の歴史と、現代の紙産業が向き合う環境への取り組みについても解説します。

私たちが日常的に扱っている「洋紙」と、日本の伝統である「和紙」。
その違いや背景を知ることで、紙という素材への理解をさらに深めていきましょう。

活版印刷の発展と紙の需要拡大

12世紀頃にヨーロッパへ伝わった紙ですが、当初からすぐに広く受け入れられたわけではありませんでした。

当時のヨーロッパでは、重要な文書には羊皮紙が使われることが多く、紙は比較的新しい素材として見られていました。紙は羊皮紙に比べて安価で扱いやすい一方、保存性や信頼性の面で不安視されることもあり、一部の地域では公文書への使用が制限される例もありました。

画像出典:Wikimedia Commons「Printer in 1568-ce」|Public Domain

しかし、15世紀半ばになると状況は大きく変わります。ドイツのヨハネス・グーテンベルクが、ヨーロッパにおいて金属活字と印刷機を組み合わせた活版印刷技術を実用化したことで、書物を効率的に複製できるようになったのです。
それまで書物は、主に人の手によって一文字ずつ書き写されていました。しかし、活版印刷によって同じ内容の書物を大量に印刷できるようになると、書物や印刷物への需要が大きく高まります。

このとき、高価で供給量にも限りがある羊皮紙では、大量印刷の需要に対応することが難しくなりました。そこで、比較的安価で大量に作ることができる紙の価値が高まっていきます。紙は、印刷文化の広がりとともに、ヨーロッパ社会における情報伝達の重要な基盤となっていきました。

製紙技術の機械化と大量生産への道

紙の需要が高まるにつれて、ヨーロッパでは製紙技術の改良が進みました。
当初、紙は職人が一枚ずつ手作業で漉いていました。原料には主に麻や綿のぼろ布が使われ、それを水に浸し、叩きほぐして繊維状にしてから紙を作っていました。しかし、印刷物の需要が増えるにつれ、より効率的に紙を生産する技術が求められるようになります。

ホレンダービーターの登場


画像出典:Wikimedia Commons「Hollander beater」|Public Domain

17世紀後半、オランダで「ホレンダービーター」と呼ばれる原料処理機が登場しました。
それまで、ぼろ布を紙の原料にするためには、水車を動力とした杵(きね)で長時間叩きほぐす必要がありました。ホレンダービーターは、回転する刃によって繊維を効率よくほぐし、より短時間で均一な紙料を作ることを可能にしました。
この技術によって、製紙工程の効率は大きく向上します。紙をより安定した品質で、より多く作るための重要な一歩となりました。

連続抄紙機(れんぞくしょうしき)の発明


画像出典:Wikimedia Commons「Fourdrinier-machine, ca. 1860」|Public Domain

さらに大きな転換点となったのが、18世紀末から19世紀初頭にかけての連続抄紙機の登場です。
1798年、フランスのルイ=ニコラ・ロベールは、切れ目のない長い紙を連続して抄く機械を考案しました。その後、この技術はイギリスで改良され、フォードリニア兄弟らによって実用化が進められます。

この仕組みは、現在の長網抄紙機(ながあみしょうしき)の基礎となるものです。
それまでの製紙は、職人が一枚ずつ紙を漉く手作業が中心でした。しかし、連続抄紙機の登場により、紙はロール状に連続して生産できる工業製品へと変わっていきます。
紙の歴史において、これは手工業から近代産業への大きな転換点でした。

木材パルプの登場と近代製紙産業

製紙技術の機械化が進むと、次に問題となったのが原料不足でした。
当時の紙の主な原料は、麻や綿のぼろ布でした。しかし、印刷物や新聞、商業文書などの需要が拡大すると、ぼろ布だけでは原料の供給が追いつかなくなっていきます。

この課題を解決するために注目されたのが、木材です。
19世紀には、木材を紙の原料として利用するための研究が進みました。中でも、ドイツのフリードリヒ・ゴットロープ・ケラーは、1840年代に木材をすりつぶして繊維を取り出す「砕木パルプ」の実用化に大きく貢献した人物として知られています。

なお、木材を紙の原料にするという発想は、18世紀にレオミュールがスズメバチの巣作りから着想したとされています。ケラーはその後、木材を機械的にすりつぶして繊維を取り出す技術の実用化に大きく貢献しました。
また、同時期には木材を紙の原料にしようとする試みが各地で行われており、木材パルプの実用化は複数の技術的な積み重ねによって進んだものといえます。

その後、化学薬品を使って木材からリグニンなどを取り除き、純度の高い繊維を取り出す「化学パルプ」の技術も発展しました。
これにより、紙の主な原料は、従来のぼろ布から、大量に調達しやすい木材パルプへと大きく移行していきます。木材パルプの普及は、新聞、雑誌、書籍、包装紙など、近代社会における紙の大量利用を支える基盤となりました。

日本における紙の歴史と和紙の進化

一方、日本では、西洋とは異なる形で紙の文化が発展していきました。
日本へは、5〜6世紀頃には大陸から紙そのものが伝わっていた可能性があります。製紙法については、610年に高句麗の僧・曇徴(どんちょう)が紙や墨の製法を伝えたという記述が『日本書紀(にほんしょき)』に残されています。

その後、日本では中国大陸から伝わった製紙技術をもとに、独自の紙づくりが発展していきます。これが、現在「和紙」と呼ばれる日本独自の紙文化につながっていきました。

筆と墨に適した日本の紙

日本や中国では、長く「筆と墨」が主な筆記具として使われてきました。
西洋の洋紙では、ペンやインクで書くことを前提に、表面の滑らかさやインクのにじみにくさが重視されました。

一方、日本の紙には、筆の運びの良さ、墨の濃淡やにじみの表現、そして障子や襖などにも使える丈夫さが求められました。
このような用途の違いが、洋紙と和紙の性質の違いにもつながっています。

流し漉きと和紙の特徴


画像出典:Wikimedia Commons「Kamisuki Abstract」|Public Domain

日本では、奈良時代から平安時代にかけて、「流し漉き」と呼ばれる独自の手漉き技術が発展・定着していきました。
流し漉きでは、楮(こうぞ)、雁皮(がんぴ)、三椏(みつまた)といった靭皮繊維(じんぴせんい)を主な原料とします。これらは木の皮から取れる長い繊維で、丈夫な紙を作るのに適しています。

さらに、トロロアオイなどから得られる粘液である「ネリ」を加え、漉き舟の中で紙料を何度も揺り動かしながら繊維を均一に絡ませていきます。

この技法によって、和紙は薄くて軽く、しかも丈夫でしなやかな紙として発展しました。書画、経典、障子、襖、包装、工芸品など、和紙は日本人の生活と文化の中で幅広く使われてきました。

江戸時代の成熟と近代化による変化

江戸時代になると、和紙の生産は全国各地に広がり、地域ごとの特色を持つ紙が作られるようになりました。
美濃紙、越前和紙、土佐和紙、石州和紙など、現在も知られる産地の多くは、長い歴史の中で技術を磨き続けてきた地域です。

一方、明治時代に入ると、日本にも西洋式の製紙技術が導入されます。1870年代には、機械による洋紙生産が日本で始まりました。その後、木材パルプを利用した洋紙生産も進み、新聞、雑誌、書籍、事務用紙などの需要拡大とともに、日本の紙市場は徐々に洋紙中心へと移っていきます。

大正時代以降、手作業による和紙産業は縮小していきました。しかし、和紙はその独自の風合い、保存性、加工性、芸術性の高さから、現在でも文化財の修復、美術紙、書道用紙、伝統工芸品、インテリア素材などとして国内外で高く評価されています。

現代の紙産業と環境への取り組み

20世紀に入ると、木材パルプを利用した紙の大量生産体制がさらに整い、紙は社会のあらゆる場面で使われる素材となりました。
現在、世界の紙・板紙の生産量は年間約4億トン規模にのぼるとされています。書籍や新聞、雑誌、コピー用紙だけでなく、段ボールや紙器、食品パッケージ、衛生用紙など、紙は現代社会を支える重要な素材であり続けています。

一方で、これだけ大きな産業であるからこそ、環境への配慮も強く求められています。

日本の製紙業界では、使用済みの紙を回収し、古紙パルプとして再利用する取り組みが進んでいます。日本の古紙回収率や古紙利用率は世界的に見ても高い水準にあり、紙づくりにおける循環利用の重要な柱となっています。

また、持続可能な森林管理、植林、製造工程における省エネルギー化、環境負荷の少ない製品開発なども進められています。
紙は、木材という自然由来の資源から作られる素材です。だからこそ、使い捨てるだけでなく、適切に回収し、再生し、循環させることが、これからの紙産業にとってますます重要になっています。

まとめ:受け継がれた紙に、新しい価値を

紙は、情報を記録し、伝え、残すための素材として、長い歴史の中で進化してきました。

ヨーロッパでは、活版印刷の普及や製紙機械の発展によって、紙は大量生産される工業製品へと変わっていきました。一方、日本では、筆と墨の文化や暮らしの中で、独自の風合いと強さを持つ和紙が育まれてきました。

そして現代の紙産業は、大量生産だけでなく、環境への配慮や資源循環も重視する時代へと進んでいます。

新晃社は、長い歴史を経て受け継がれてきた「紙」という素材に、箔押し印刷や疑似エンボス加工といった特殊印刷・特殊加工で新たな価値を加える総合印刷会社です。
紙の歴史に思いを馳せながら、その可能性をこれからも広げていきます。
紙の特性を活かした表現や、印刷物に印象を加える特殊加工にご興味のある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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